◆ 2024.12.20
第1回 Aさんの事例(2)/パワハラ不動産営業
【報告者】運営委員・弁護士 丸山 健
前回に引き続いて、Aさんの事例です。Aさんが雇用されていたのが、有名建売業者の100%販売子会社で全国に営業所網を持っていること、Aさんがその営業所をたらい回しされた挙句、不動産営業自体から引き離されて一人で不動産チラシのポスティング業務を命ぜられたことは前回述べました。
では、このようなことをする会社の目的はどこにあったのでしょうか。
それはAさんが自分から退職するよう仕向けることでした。日本の労働法制では、使用者は、米国のように労働者を自由に解雇することはできません。曖昧模糊で事前判断が困難な「社会的に相当で合理的な理由」が必要とされるため、訴訟で争われると、後に解雇が無効と判断されるリスクがあるのです。そこで、会社は、労働者を解雇する代わりに嫌がらせ=パワハラで自主退職に追い込むことによって、そのリスクを回避しようとするのです。
このような場合に会社が行うパワハラは、暴言を吐くなどのあからさまなことではなく、非常に巧妙なものになります。パワハラと認定されないよう、適法な業務命令権の行使という形式を用いて、じわじわ締め付けるという方法を取ります。Aさんの場合も、会社は、営業職の向いていないから、業務上必要なポスティング業務を命じたのであり、何ら違法性はないと繰り返し主張しました、
しかし、馬脚は現れるものです。Aさんはが3年間自主退職せず耐えたことで、まだ辞めないのかとばかりに、なぜなら意味のない仕事をさせ続けるのは会社にとっても大損ですから、会社は、Aさんから移動のための車を取り上げるなど不合理な措置を取り始めました。そのことにより、ポスティング業務が会社にとってAさんを苦しめるだけの意味しかないことを自認するに等しくなり、労働審判での致命傷となりました。
(3)へつづく
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