◆ 2025.02.05
第5回 Aさんの事例(5)/パワハラ不動産営業
【報告者】運営委員・弁護士 丸山 健
パワハラには、会社の意図とは関係なく、上司や同僚の個性等や防止体制の不備によるものと、Aさんの場合のように、会社の組織的決定によりなされるものとがあります。いずれもパワハラを受けている当該労働者にとっては大変なことですが、前者の場合には勇気を振り絞ってそれなりの方法を講ずればパワハラを排除できる可能性があり、排除できれば当該職場に在籍していくこともできます。
しかし、後者は、会社組織を相手にするものであり、そもそも自分にパワハラを仕掛けてくるような会社に残って闘う意味など果たしてあるのか、さっさと退職すべきではないか、既に退職していても全面的に争ってくる会社に対して早期確実に勝つことができる見込みがない限りは、争っても仕方がないのではないか。
Aさんの場合も、会社はAさんに対して、業務命令通りポスティング業務の遂行していないとの理由で、自主退職しなければ懲戒解雇にすると脅し続けました。しかし、Aさんは、毅然と、ポスティングの業務命令自体が違法無効だから、その遂行方法にかかる業務命令も無効だとの理屈で反論し、マイペースでポスティングをしながら労働審判でパワハラを争いました。会社の懲戒解雇の脅しに屈しなかったからこそ、Aさんは、会社都合退職と引き換えに、解決金と退職金を得ることができました。
しかし、Aさんのような態度をとることは、多くの人にはできません。そうして、パワハラで精神的に追い込まれているような場合には、まず自らを防衛し、時間をかけても回復することが先になるでしょう。
それでも、パワハラされたことの何らかのけじめを付けることには意味があると思います。それは人格の回復であるから。
(了)
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