学習会報告

学習会「労働審判―運用と問題点」

開催日:2020年1月30日(木)

1月30日、学習会「労働審判―運用と問題点―」(主催北部労法)が、としま区民センターにおいて開催され、労働組合関係者などが参加しました。冒頭、司会より労働審判運用開始以降、制度がどのように運用され、また、どのような問題があるのか共有していきたいとのあいさつがなされ、荒木昭彦さん(労働者法律センター代表、弁護士)、和田史郎さん(弁護士)より問題提起がなされました。

前半では、和田さんよりレジュメにそって各項目、以下のように進行されました。

① 「制度概要」
2006年より本制度が始まった。事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的としている。原則、申立て日より40日以内に労働審判手続きの第一回期日の指定と、三回以内での審理の終結
② 「事件件数」
扱いはスタートの2006年は877件からはじまり、2009年以降は毎年3000件台で横ばい
③ 「審理」
労働審判委員会は労働審判官1名(裁判官)、労働審判員2名(労働1、使用1)で構成。原則非公開。双方ヒヤリングなどを経て、調停(和解)の妥結点が探られる。審判不服の場合、2週間以内に異議申し立てができ、通常訴訟に移行
④ 「労度審判のメリット・デメリット」
メリットとして約70%が3か月以内に審理が終わり、裁判と違い白黒でなく柔軟な解決が可能。デメリットは複数申し立て不可。裁判では時間をかけることができるが、1回目に主張、証拠をそろえる必要あり。また複雑な事案には向かないなど通常裁判と違う
⑤ 「労働審判の問題点」
申立書に事前交渉をしてそれを記入する必要がある。解決金の低額化。解雇後の転職で収入を得ていた場合、バックペイ分は控除される。労働審判ではこれを労働者側に自己申告をしろという扱いが多い(中間収入控除、4割上限。裁判ではこのようなケースは見られない)

などがあげられ、制度についてのそれぞれの解説がなされました。

つづいて、荒木さんより「通常訴訟では、原告、被告の主張に拘束され、お互いの請求内容にそって判断する当事者主義となっている。それに対し労働審判は、裁判所が主導できる仕組みで、職務上、職権主義的な手続きである」「労働審判では、裁判所が聞きたいことを聞いてくる。労働者側の想定外のことも聞いてくるので、不利になる場合もある」と指摘。「労働審判にはメリットは感じない。早く解決したい等、当事者からの要望があった場合などの例外的な場合はあるかもしれないが、通常訴訟でやるのが基本ではないか」「集団申し立ては受け付けられず、労働組合排除の問題のある制度として考えなくてはならない」「解雇の金銭解決制度が論議されているが、労働審判が先取りしている。今は、労働者側からの申し立てのみとして論議されているが、導入後は経営側からも申し立てられるよう改正されるだろう」と問題点を明らかにしました。

質疑応答では、「審判内容の第三者非開示は裁判所で一般的になっている。黙っていると和解時の項目に入ってくる」「審判を労働組合がバックアップしているケースは低いと思われる」「配転や査定などの問題は、要件を満たせば審判の対象になるが、いじめ、パワハラなどは問題が細かく入り組んでいるので、労働審判には向かないのではないか」など、会場の質問に応じながら論議が行われ、この日の学習会を終えていきました。(北部労働者法律センター)