セクハラの相談

私は、事務職員として某会社に勤務していますが、直属の上司である課長が、勤務終了後、何度も、酒を飲みに誘い、行くと、酔って、胸などの体に触るなどしてとても嫌です。行くのを断わると、「仕事を円滑に進めるにはつきあいが必要だ」などというので、断わりきれないのです。やむをえず、さらに上の上司の方に相談して、注意してくれるよう頼んだのですが、仕事が終わって、職場を出た後のことは、仕事とは関係がないと言われてしまい、何もしてくれません。最近では、仕事に行くのも憂鬱です。こういうのは、セクハラにはあたらないのですか。
相談の行為はセクハラに当たりますし、これを放置している会社にも法的責任が発生します。
1.セクハラって? セクシュアル・ハラスメント(以下、セクハラといいます)とは、最広義では「相手方の望まない性的言動」、広義では「一定の社会的な関係を予定して行われる、相手方の望まない性的言動」、狭義では「雇用上の関係を利用して行われる、相手方の望まない性的言動」のことをいいます。そして、「相手方の望まない性的言動」の程度は、強姦、強制わいせつなど刑罰法規に抵触する行為から、職場で女性が不快に感ずるポスターを貼るなど、刑罰法規に抵触するとまではいえない行為まで、様々です。
また、セクハラを2類型に大別するならば、①その性的言動を受け入れるか否かに応じて被害者が何らかの利益または不利益を受けることになる「対価型」と、 ②加害者及び被害者を取り巻く共通の環境(多くは、加害者及び被害者に共通の職場環境)を悪化させ、被害者の就労意欲や能力発揮を妨げることになる「環境型」に分けることができます。
ここで注意すべきことは、その「相手方の望まない性的言動」の誘いを断わることに不利益を科すなどの明示がなくても、現に「最近では、仕事に行くのも憂鬱です」と言っているあなたのように、被害者の就労意欲や能力発揮を妨げる結果を引き起こしている場合には、上記②の「環境型」セクハラが成立するということです。
2.職場外、勤務時間外のことでもセクハラにあたるか さて、あなたは、直属の上司である課長に勤務終了後何度も酒を飲みに行くよう誘われて、着いて行った際に胸などの体に触られるなどの「望まない性的言動」を強いられたものであり、誘ったのが直属の上司でなければ、言い換えれば、誘った人との間に「雇用上の(上司・部下の)関係」が存在しなければ、誘いを断った可能性が高いわけです。したがって、上記1の狭義の定義に拠ったとしても、あなたの上司のやったことは「雇用上の関係を利用して行われる、相手方の望まない性的言動」であるといえ、明々白々たるセクハラです。言い換えれば、職場外、勤務時間外のことであっても、「雇用上の関係を利用」して相手方の「望まない性的言動」が行われれば、セクハラが成り立つということです。
3.セクハラに対する法的責任セクハラは、民法 709条の定める不法行為に当たり、あなたは問題の上司に対して損害賠償請求(精神的損害賠償請求=慰謝料請求)をすることができます。また、このように、明白にセクハラが成立しているにもかかわらず、更に上の上司の人は、あなたから注意してくれるよう頼まれても「仕事が終わって、職場を出た後のことは、仕事とは関係がない」などと言っているようです。
しかし、民法715条1項は、会社などの従業員(被用者)がその事業の執行につき第三者に損害を加えた場合には、会社(使用者)もまた損害賠償の責任を負うことを定めています。ここで多少問題となるのは、職場外、勤務時間外の酒の席でのこと(更に上の上司の人のいう「職場を出た後のこと」)が「その事業の執行につき」の要件を満たすかどうかです。しかし、既に述べたように、誘った人との間に「雇用上の(上司・部下の)関係」が存在しなければ、あなたは誘いを断った可能性が高いわけですから、この酒の席は職場における人間関係を円滑にする目的で設定されたもの(だからこそ、あなたもいやいやながらついて行った)と認定でき、「その事業の執行につき」の要件を満たすと考えられます。
また、会社(使用者)は従業員(被用者)との労働契約に基づき信義則上、従業員にとって働きやすい職場環境を保つように配慮する義務(職場環境配慮義務)を負うことが判例上も認められ始めており(津地判平成9年11月5日判例タイムズ981号204頁等)、会社はこの職場環境配慮義務違反(労働契約上の義務の債務不履行)を理由としても、あなたに対して損害賠償責任を負います。よって、あなたのいう「更に上の上司」の対応は間違っています。
4.セクハラ相談窓口 もっとも、あなたが最も強く望んでいることは、セクハラをする上司や会社に損害賠償をさせることより先に、まず何よりも上司のセクハラをストップさせることではいないかと思われます。平成10年労働省告示第20号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指針」において、「事業主は、相談・苦情への対応のための窓口を明確にすることについて配慮しなければならない。」と明記されて以降、社内にセクハラ対応窓口を設置する会社が飛躍的に増えています。もしあなたの会社にセクハラ対応窓口が設置されているようでしたら、「更に上の上司」など職場上の指揮命令系統がつながっている人にではなく、直接セクハラ対応窓口に相談・苦情を持ち込んだほうが良いと思われます。
また、もしセクハラ対応窓口が設けられていない場合には、そのこと自体が上述の職場環境配慮義務に違反しているとも考えられますので、会社の代表者(代表取締役社長等)宛に、セクハラ対応窓口が設置されていないことへの苦情をも含めて、直訴すべきです。
なお、会社の心理カウンセリング室がセクハラ対応窓口を兼ねているケースが往々にしてあり、そのような場合にはあなたが直接出向いて口頭で相談・苦情を持ち込むので構わないと思いますが、それ以外の場合は、相談・苦情の持ち込みは書面(できれば、内容証明郵便)で行うほうが望ましいと考えられます。そして、もし自分自身で書面により相談・苦情を持ち込むことに気後れするようであれば、遠慮なく弁護士に相談するのがよいでしょう。