内定についての相談

私は現在大学4年生で今年の3月卒業予定です。ある会社に就職が内定していたのですが、内定後、交際していた彼と結婚し、それをたまたま会社が知ったところ内定を取り消すといってきたのです。
確かに就職面接のときには結婚の予定があることは会社に言いませんでしたが結婚する、しないは個人の自由だと思います。こんなことで内定の取り消しになるんでしょうか。
内定取消は認められないと思います。
1.内定の法的性質 あなたが「ある会社に就職が内定していた」というのは、ある会社が大学卒業予定者に対する新入社員の募集が行い、あなたがこれに応募し、会社が採用内定通知を出したということだと考えられます。そして、採用内定通知に採用内定取消事由が明記されていたか、そうでなければ、あなたが採用内定通知を受け取った後で「かくかくしかじかの場合には、採用内定を取り消されても何ら異存ありません。」との一項目を含む誓約書を、会社に対して提出したことでしょう。
判例はこのような、会社からの募集(労働契約の申込みの誘引)に対して応募(労働契約の申込み)がなされ、会社が採用内定取消事由を明記した採用内定通知を出した(上記申込みに対する承諾)か、採用内定通知直後に採用内定取消事由を明記した誓約書を応募者が提出した場合を、採用内定通知ないし誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約(解約権留保付労働契約)であると解しています(大日本印刷採用内定取消事件最判昭和54年 7月20日、電電公社採用内定取消事件最判昭和55年5月30日)。
したがって、会社は、採用内定通知または誓約書に明記された採用内定取消事由が発生した場合には、採用内定を取り消すことができます。
2.内定取消自由 採用内定取消事由としては、「その他、入社後の勤務に不適当と認められる事由」というような一般条項が挿入されている場合が多く、「内定後、交際していた彼と結婚した」ことが「入社後の勤務に不適当と認められる事由」にあたるかどうかが問題となります。また、そのような一般条項が採用内定取消事由として明記されなくとも、「(会社による)解約権の留保は右の場合(注:採用通知に明記された採用内定取消事由に該当する場合)に限られるものではなく、(会社が)採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる場合をも含むと解するのが相当であり……」と考えられています(上記電電公社採用内定取消事件最判。なお、上記大日本印刷採用内定取消事件も同旨)。
この点、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、男女雇用機会均等法といいます)第5条は「事業主は、労働者の募集及び採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならない。」、第8条1項は「事業主は、労働者の定年及び解雇について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない。」、第8条2項は「事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。」と定めています。あなたがもし男性であれば、就職内定後に交際していた彼女と結婚したからといって内定を取り消されることなど考えられませんから、あなたが就職内定後交際していた彼と結婚したことを理由として内定を取り消すことは、「労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをし」たことにほかならないといえ、男女雇用機会均等法の上記各条項の解釈からは、客観的に合理的であるとも社会通念上相当であるともいえず、解約権の濫用として無効であると考えられます。
3.経歴詐称との関係なお、あなたは就職面接のときには結婚の予定があることを会社に言わなかったとのことで、これを経歴詐称として内定取消しが認められるのではないかというご心配もあるかもしれません。
この点、就業規則上の懲戒解雇理由である「重要な経歴の詐称」に当たるか否かに関し判断した裁判例では、「……一般に企業が労働者を採用するにあたって履歴書を提出させ、あるいは採用面接において経歴の説明を求めるのは、労働者の資質、能力、性格等を適正に評価し、当該企業の採用基準に合致するかどうかを判定する資料とするとともに、採用後の労働条件、人事配置等を決定する資料とするためであるから、かかる経歴についての申告を求めることは企業にとって当然のことといわなければならない。したがってその反面として、企業に雇用され、継続的な契約関係に入ろうとする労働者は、当該企業から履歴書の提出を求められ、あるいは採用面接の際に経歴についての質問を受けたときは、これについて真実を告げるべき信義則上の義務があるものというべきであり、これを偽り詐称することは右にいう信義則上の義務に違背することになるものというべきである。しかし、かかる経歴詐称が懲戒解雇事由たりうるためには、単に契約締結過程において信義則上の義務に違背したというだけでは足りず、原則としてそれにより本来与えられるはずのない賃金、職種等を取得したとかの企業秩序侵害の事実が存在することが必要となる。しかしその例外として、労働者が経歴詐称により本来従業員たり得ないのに従業員たる地位を取得した場合は、右詐称は重大な信義則違反であり、かつ契約成立の根幹をゆるがすものであるから(民法95条参照)、それにより企業秩序が侵害されたかどうかを問うまでもなく、それ自体で企業秩序に重大な影響を与えたものとして、懲戒解雇事由にあたるものというべきである。」(東京地決昭和60年 5月24日判例タイムズ566号242頁)として、その経歴詐称が労働契約成立の根幹を揺るがすものとして企業秩序に重大な影響を与えるものであるか否かを、「重要な経歴の詐称」に当たるか否かの判断基準としています。
あなたの場合、そもそも採用面接で結婚の予定を明言しなかったことが「経歴」の詐称といえるかどうか甚だ疑問である上に、上述の男女雇用機会均等法第5条、第8条1項・2項の趣旨からみても、結婚の予定を告げなかったことが、労働契約成立の根幹を揺るがすものとして企業秩序に重大な影響を与えるものとは到底いえない(なぜなら、結婚の予定の有無によって労働契約の成否を分かつこと自体、男女雇用機会均等法の上記各条項違反だから)のですから、経歴詐称云々についてはご心配に及ぶ必要は全くありません。